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2013年11月19日 (火)

戦争の本当のつらさが身にしみついた人のいなくなる日本

 映画の木下恵介監督といえば数多の名作で知られるが、戦時
中に撮った「陸軍」も忘れがたい。出兵の行進の中にわが子を
見つけた母親が、横についてひた走りに走り、最後に合掌して見送り、
立ち尽くす。 
 軍の依頼で作りながら軍に睨まれた、伝説のラストシーンに重
なる歌がある。(わが生のあらむ限りの幻や送りし旗の前を征きし子)。
作者の小山ひとみさんは、戦死したひとり息子を詠んで、朝日歌壇によく選ばれた
人だ。
行商をして独りの暮らしを立てていた人という。「その痛哭のあまりのは
げしさに、この人の名を記憶されている読者もいるだろう」と、40年前、8月15
日の小欄は書いている。戦争が終わって28年、戦没兵の親もまだ多くご健在だった。
  きのう東京であった全国戦没者追悼式の参列予定者には、3年続けて戦没兵の父母の名はなかった。
 妻も16人で過去最少となった。戦後の時を死者と分かち持ってきた人が、いよいよ減りつつある。
 記憶する人も死に絶えたとき、死者は真に死ぬという。その謂いに従えば、
戦没者は続々と「真の死者」になりつつある。
 静かでたしかな追悼のかたちが、むしろこれから大切になる。
 とともに、他国の犠牲者も忘れてはなるまい。(遺棄死体数百といひ数千といふ いのちをふたつもちしものなし)と戦時中、新聞人で歌人の土岐善麿は詠んだ。これは日本
軍の戦果を報じたニュースヘの歌という。おごそかな真実の前に自国他国の違いはなく、
母の痛哭に軽重はない。
2013・8・16朝日新聞<朝刊>「天声人語」

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